ビーイング・ギドン・クレーメル(BEING GIDON KREMER)、行ってきました。
よかった、最高でした。さすが我らがギドン・クレーメル。
今回はクラシック・コメディアン「イグデスマン&ジュー」との競演で、副題は、
THE RISE & FALL OF THE CASSICAL MUSICIAN(~クラシック音楽家の栄枯盛衰~)
です。
冒頭、コントラバスのピッチカートで、その世界に吸い込まれました。今回の公演、全体を通してコントラバスの音色が際立っていました。たった2本のコントラバスですが、下からズーンと支えていて厚みがあり、それでいてクレーメル好みの鋭い音を出す場面もあり、要所要所でアンサンブルを引っ張っていました。
クレーメルを聴いたのは数年ぶりですが、やっぱりいいですねぇ。歯切れもいいし、特に極弱音の繊細さはなんともいえません。
ベートーベンのバイオリン協奏曲も、パガニーニの主題による変奏曲も、おいしいところだけいいとこ取り。
全体を通して感じたのは、クレーメルも、クレメラータのメンバーも、一生懸命誠実に演奏しているように見えたこと。そう見えたのですから、きっと実際にそう演奏しているのだと思います。それに、楽しそう。クールで、あまり表情を変えないクレーメルも演奏途中に口元をほころばしたり、楽しそうに演奏しているのが印象的でした。
この、一生懸命演奏している(様に見える)って、私の中では重要です。CDと違って、目の前にビジュアルがあるわけですから。なので、私の感動の度合い=(耳から入ってくる音楽)×(目から入ってくる演奏者のビジュアル) です。
というわけで、今までに最も感動したコンサートはサイトウ・キネン・オーケストラのマーラー作曲 交響曲第2番。最悪だったのはウィーン・フィルハーモニー・管弦楽団(あまりに酷かったので、演奏していた曲目も忘れてしまいました)。
そのほか、何よりも貴重だったのが、クレーメルの台詞が多かったこと。演奏家の声って、なかなか聴けません。クレーメル、マイクをつけての演奏でした。
今回の公演はクラシック・コメディの二人組イグデスマン&ジューとの競演。ふれこみも「シネマミュージックとコメディ!」となっているくらいで、音楽と共にコメディが見所のひとつです。コメディですから、お芝居なんですよね。クレーメルやクレメラータの皆さん、当然音楽はプロですが、きっと演技なんて初体験だったりして?クレメラータの皆さんは台詞、ほとんどなかったように記憶していますが、そこはクラシック・コメディなので、表情や動作のタイミングが「笑いの鍵」になってくるわけです。そのあたり、イグデスマン&ジューほどでは当然ないですけれど、がんばってました。
さらに、クレーメル。台詞多かったです。イグデスマン&ジューとの台詞の掛け合いも。「覚えるの苦手な私だったら、できないかもしれない。よく覚えてるなー。」なんて思ってしまいました。三人とも、たまーに日本語が入ってくるけど、当然ほとんどが英語(だと思います。私の語学力では、簡単なところしか聞き取れないので・・・悲しー)。クレーメルの台詞回しって、上手かったのかな?
イグデスマン&ジューとクレメラータとの絡みでは、クラシックコメディーおなじみのバイオリンでの音まね(バイオリンでドアの軋み音や車のエンジン音、救急車のサイレンの音)や、クレーメルとクレメラータをCDプレーヤーに見立てて、リモコンでの曲目変更とかありました。珍しくはないのですが、これ、面白かったです。会場もとてもうけてました。テレビでもよくやるし、実際に生で聴いたこともあったけれど、彼らの高度な技術力が下支えしているのか、コンサートの張りつめた空気の中で観客をグッと集中させ、笑いを引き出す力は凄かったです。
そうそう、途中でイグデスマン(だったかな?)が、クレーメルのバイオリン、1641年製のニコロ・アマティを投げ飛ばそうと振り回すシーンがあり、客席から「おーっ、フーッ」と声が漏れていました。クレーメルもよくやりますね。アマティですよ(本物だと思いますが)。
一方で、不況の影響か、演目のためか、観客の入りは少なめでした。ざっとみて6割?そのためか、聴きに来ているのは、多くがコアなクラッシック&クレーメルファンとみました。この不況下、この公演内容でチケットを買ってわざわざ聴きにくるってことは、クレーメルの感性というか、センスというか、そういったものを信頼・期待しているということでは?ファンって大事ですね。ちなみに、公演の趣旨から会場でも事前に曲名を知らされることはなく、プログラムにも載っていませんでした。そのプログラムも500円(公演前にはあまり買っている人、あまり見かけませんでした。私は買いましたけど。)。数年前なら1500円くらいしてたよなぁ。プログラムの内容も、装丁こそ通常のものと変わりませんが、内容はウィットに富んでいて、奇抜です。
クレーメル、最後に観客にメッセージを残していました。字幕が出ていたので分かりやすかったのですが、「市民クレーメルファンの、明日への活力になれば・・」とかなんとか(「市民」クレーメルファンって、何かと掛けてある?)。そっかぁ、大音楽家クレーメルでもそんなこと考えるんだ・・・、と感慨もひとしおでした。私としては、クレーメルのどこが好きって、音楽的にどうこうというのもありますが、そのコンサートに向かう姿勢が好きなんです。クレーメルの、それも特にクレメラータのコンサートは、エンターテイメント的な要素が強いと思っています。それも上質のエンターテイメント。会場に来ている人を喜ばせようといったところです。
きっと賛否両論あると思います。クラシックの本筋から外れているとか云々。でも、実際にコンサート会場へ足を運ぶと、楽しいんですよね。クレーメルやクレメラータのコンサートで、「ああ来てよかった、楽しかった、また明日からがんばろう」って、そういう気持ちになって帰ったことが、過去何度もあります。なので、「明日への活力・・・」ってメッセージを受け取ったとき、「やっぱり、私たちのことを考えてくれていたのね。」という感じで正直うれしかったです。今までの経験から言っても、多分本音なのではないかなと。
今回の演奏会、クラシックの曲自体を堪能したい人には向いていませんが(っていうか、そもそも来ないですよね)、クレーメルワールドは十分堪能できるものでした。次回も行けるといいなぁ。
蛇足ですが、久々にクレメラータのCDでも買おうかと調べてみると、以前買おうかどうしようかと迷ってそのままになっていたものが、廃盤になっていたりして、ショックでした。特に「シレンシオ -沈黙- 」は一時期よく聴いていて、今でも大事にしているし、「ヴァスクス:遠き光&声」はそのうち聴いてみようと思っていたら廃盤になっていました。うーん、聴きたいと思ったものは買っておかなくては・・・。今入手可能なものの中では「カンチェーリ:タイム・・・アンド・アゲイン(1996) 」気になるし、チェロ好きの私としては最近発売された『チェロ・フィエスタ!』も外せないところ。
いかんいかん、また物欲が。
カンチェリ、ギア(1935-)/In L’istesso Tempo Time…andagain: Kremer(Vn) / Kremerata Baltica Etc
*チェロ・オムニバス*/Cello Fiesta!: Hecker Kharadze(Vc) Kremerata Baltica
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